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活動3年目に向けて(事務局長メッセージ)

2013-05-05

メッセージ:東日本大震災子ども支援ネットワーク結成2周年 
子どもの暮らし復興への提言子どもの権利条約に基づく子どもにやさしいまちづくりを

2013年5月5日 東日本大震災子ども支援ネットワーク 事務局長 森田明美

PDFファイル→message20130505

東日本大震災の発生から2年が経過しましたが、被災地の人たちをはじめとする懸命の
取り組みにもかかわらず、復興は決して順調とはいえない状況です。とりわけ、
福島は原発事故のため復興の展望も明らかにならず、いっそう深刻です。
わたしたち東日本大震災子ども支援ネットワークは、次のような目的を持って、
NGO/NPOが力を合わせて子ども支援や子育て家庭の支援に粘り強く取り組んで
いこうと2011年5月5日に結成しました。
① 東日本大震災・原発事故の被災者支援・被災地復興における子どもの視点、
子どもの権利という考え・手法の提示と構築-国連・児童(子ども)の権利条約の
趣旨・規定、子ども最優先の原則に基づく子どもおよび家族支援、学校・施設等の
再構築、コミュニティ・地域の再生を図り、ユニセフのいう「子どもにやさしい
まち」づくりを推進する。
② 緊急かつ多様に展開している行政、公的な機関・者、企業、専門家、NGO/NPO、
ボランティア等による子どもや子育て家庭に対する支援・復興における効果的な連携を
促進し、NGO/NPO、ボランティアによる支援活動の橋渡しをする。 
当ネットワークでは、これらの目的を実現するために、ホームページを立ち上げ、
7回にわたる国会議員会館での国会議員/政府/被災自治体・市民団体などによる
「意見交換会」の開催、被災地で議員やNPO関係者、さらには子どもたちとの
意見交換会、またホームページ上であるいは集会で子どもたちの声を聴く取り組み
などを進めてきました。
当ネットワークの発足2周年にあたり、これまでのネットワーク活動から改めて
被災地における子どもたちが直面している現状を分析しました。
3年目の活動は、支援者と子どもたちをつなぐための活動を一層進め、子どもたちが
望む復興の実現に向けて、子どもたちが直面している困難な状況を1つでも多く
改善していくための活動を展開していきます。


1 子どもたちが直面している困難大震災から2年が経ちましたが、わたしたちは
子どもたちがとりわけ次のような困難に直面していると感じています。
① 家族、親族、友人などの喪失からくる孤立:暮らしの中で当たり前にあったこと、
自然な存在であった人たちとの暮らしの喪失感を共有できる、新しい関係づくりが
難しい状態が続いています。 
② 悲しみや苦しみ、怒りやいらだちを表現できないつらさ:共感を持って受け止めて
もらえていません。おとなを気遣って自分の思いや願いを話せていません。
③ 被災後「がんばってきた」疲れ:いつまで頑張らなければならないのか、
先行きがなんだかはっきりしない状態です。
④ 転居(仮設住宅など)による不自由さ:狭く、うるさい場所で生活せざるをえず、
それを避ける場もありません。バラバラに避難しているため、放課後に遊べる友達が
減っています。
⑤ 活動空間の喪失:子どもの遊び場の多くに仮設住宅や駐車場等ができ、遊ぶ場所が
奪われています。また、間借りの学校や学校の統廃合により安心して教育を受けたり
活動したりすることができません。その不安や不満を言うことすらできません。
⑥ 経済的な困窮:親は働く場所がなく、高校生もアルバイトができません。
そのため、参考書や問題集を買う余裕がなく、塾などへ通う余裕もない子どもが
います。勉強が得意ではない子どもが、家庭の状況を鑑みて進学することをためらう
という状況も生まれています。
⑦ イベント型事業・活動が氾濫するなかでの日常生活の支援の不足:自分自身を
確立する場と支援が少ない状況があります。
⑧ 多様な子ども支援が展開されるなかでの質の検証の不足:寄付やボランティア等は
受ける側で拒否できませんが、支援事業がときに負の影響(人権侵害など)を与える
こともあります。だからこそ質の評価など支援を提供する側の自己および第三者評価が
重要です。

2 子どもの暮らし復興への提言このような状況のなかで、わたしたちは以下のような
視点をもって活動を進めることを提言します。
① 子どもの権利条約の視点子どもは、単なる保護の対象ではなく、復興の当事者
であり、主体です。だからこそ、子どもを権利の主体として位置づけて子ども支援に
取り組むことが大切です。子どもの問題に取り組む際の国際基準である子どもの
権利条約は、子どものいのちを守ることを基本にして、生活、遊び、教育等を総合的に
保障する基盤となるものです。
とりわけ、子ども参加を進め、子どもと共に復興することが求められています。
そこでは、子どもから高齢者まで地域の人全体が参加し、発言し、働き、支え合う
社会の復旧を推進することが肝要です。
② 「いま」を支援する視点仮の生活(住居、学校、施設など)が長期間にわたって
仮であり続けることにより、本来の生活再建への歩みを遅らせ、むしろ不安定な
状況になったり、心身の健康を損ねる人を増やしています。
子どもにとっては未来も大切ですが、「いま」を生きる主体であることを念頭に
置くことが大切です。
子どもが未来に希望をもてるように「いま」子どもたちがかかえる問題に
どのように取り組むかという視点が必要です。
③ インクルーシブな(包括的な)視点に基づいた施策の徹底人的、経済的な
支援が少ないために、重篤な問題を抱えている子どもを抽出して、特別に支援を
進めるというやり方はスティグマや対立が発生するという危険が伴います。
特定の子どもに特化することなく事業を地域で普遍化しなければ分断を促進する
ことになるので、環境整備と保護的支援の重層的支援の展開を進める必要が
あります。とりわけ子どもたちはどのような環境や条件にあろうと地域で一緒に育ち、
地域で支え合って育てる存在であるという視点を大切にしながら、子どもたちが
協力し合うことができる社会をつくる視点が必要です。
④ 権利侵害を許さない、子ども固有の相談・救済の仕組みづくり 安心して
生活できない、遊べない、学習できないということ自体が子どもの権利侵害ですし、
虐待やいじめなど子どもの権利侵害も増加しています。子どもがつらい、苦しいと
感じたときに安心してSOSが出せ、そのことが効果的な救済につながる仕組み
(子どもオンブズパーソン制度など)を至急つくる必要があります。
この仕組みは社会のセーフティネットとしても求められています。
⑤ 多様な分野の横断的なネットワークづくり復興の過程においては、例えば子どもの
権利とおとな・高齢者の権利、福祉と教育の権利など権利と権利がぶつかり合う場面が
出てくる現実があります。この権利と権利のぶつかり合いの調整ができるよう、健康・
医療、福祉、教育、都市計画など多様な分野の横断的な意見交換と調整の場や
協力体制が求められています。 
⑥ 行政と市民社会との協働の推進  行政とNGO/NPO等の市民社会との協働が言われ
続けていますが、言葉だけでは連携は進みません。そのつなぎ役を果たす人・組織が
必要です。
また、両者がパートナーシップの視点を持って、協働の経験を積み重ねていくことが
大切です。そのために、例えば自治体や団体などが活用しやすい助成事業の整備も必要です。
⑦ 支援者の多様な支援 子どもには「信頼できるおとな」の存在が不可欠です。
ところが、保育士、教職員、施設職員をはじめ子どもに関わる支援者自身が被災者で
あるという事態にもかかわらず、大多数の支援者は充分な休みもとれず(とらず)、
子どもの問題に取り組んでいます。支援者には休むこととケアの両方が必要です。
休むためにはスタッフの確保等の条件整備が必要ですし、ケアには相談窓口や
スーパーヴァイザーの配置などが必要です。支援者に対する支援が緊急に求められて
います。
⑧ つながりをつくるためのコーディネート役割の必要性家庭、学校、地域、
子ども相互、おとなと子ども、専門家と市民など様々なところで話合いが適切に
なされず、コミュニケーションが取れないことによって、支援が十分に届かない人が
増えています。つながりをつくるためには、調整役割を担う人や組織が必要です。
⑨ 支援の継続性:希望をつなぐ 大震災から2年が経つなかで、大震災のことが
徐々に忘れ去られ、NGO/NPOなどによる支援も打ち切られようとしています。
そのような時期だからこそ、子どもの生活、居場所、遊び、教育等をつなぐ、
また家庭、学校、地域、NPO等をつなぐ支援が必要です。そのことが希望をつなぐ
ことにもつながります。
⑩ 「子どもにやさしいまち」づくり 上記のことを推進していくためにも、
子どもの権利を尊重し、子どもにやさしいまちづくりを進めるための法律や
条例を制定していくことが必要になっています。子どもにやさしいまちは、
ユニセフによれば、子どもの権利条約を実現するまちであり、子ども参加を進める
まちです。この子どもにやさしいまちづくりこそ、これからのまちづくりの基本に
おかれることが求められています。

わたしたち東日本大震災子ども支援ネットワークは、引き続き、
子どもの声にしっかりと耳を傾け、子どもの状況に寄り添いながら、
子ども、おとな、企業、NGO、NPO、市民社会、被災地、被災自治体と
中央政府などをつなぐために、国会や被災地での意見交換会や子どもとおとなの
意見交換会をとおして、以上の「提言」の実現に向けて、活動を続けます。

連絡先:
〒112-8606 東京都文京区白山5-28-20 東洋大学社会学部森田明美研究室気付
東日本大震災子ども支援ネットワーク TEL03-3945-7481

 

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