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子どもの暮らし復興に向けて -5年目の活動-

2015-05-03

子どもの暮らし復興に向けて-東日本大震災子ども支援ネットワーク5年目の活動-
2015年5月5日東日本大震災子ども支援ネットワーク

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2014年は、子どもの問題に取り組む際のグローバルスタンダードである「子どもの権利条約」の国連採択から25年、日本批准から20年という節目の年でした。東日本大震災という未曾有の被害を受けた日本において、本ネットワーク運営団体や加盟団体をはじめ、さまざまな子ども支援団体も、被災地の復興への取り組みの中での子どもの権利の保障、災害時にも子どもたちの権利が保障されるような仕組みづくりの重要性などを訴えた1年でした。東日本大震災から4年が経過し、復興への5年目の取り組みが始まっています。支援団体が徐々に被災地の支援活動から引き上げるなか、子ども支援に特化して活動を進める団体もその例外ではありません。東日本大震災の被災地域の外では、震災のことが語られる機会も減り、震災がすでに「風化」されてしまっているという声も聞かれます。そのようななか、わたしたち東日本大震災子ども支援ネットワークは、2011年5月の発足から5年目をむかえ、これまで以上に、「子どもの権利条約」の趣旨や理念をふまえた被災地での子ども支援のあり方を提起していく必要性を実感しています。子どもたちや子どもに関わるおとなたちの発言を丁寧に聴き取りながら、子どもの最善の利益の具体化を実現するために、その思いや声を、国会議員会館内での集い、被災地での意見交換会、被災した子どもたちと市民との意見交換会などの機会を通じて、国会や各自治体の議会、政府、行政、市民社会などにつなぐ取り組みを続けていきます。

1. 震災から5年目の子どもたちをめぐる状況
東日本大震災から5年目をむかえ、被災地の子どもたちは、復興に向けた歩みのなかで、自分が体験した悲しみや辛さ、喜びなどを少しずつ声に出すことができるようになってきています。また復興への思いや思い描く復興のまちづくりについても、語り始めています。その一方で、自分の気持ちや意見を声に出せない子どもたちやおとなも少なくありません。いわゆる「支えられ格差」は、5年目をむかえて、さらに増しているといえます。支援につながって元気になっていく子どもやおとながいる一方で、支援につながりたくない、支援につながりたくてもつながれない子どもやおとながいます。震災前からのさまざまな家庭・地域での暮らしや学校生活が震災後に影響していることも明らかになっています。 災害復興公営住宅の建設も3割しか進まず、いまだ仮設住宅の入居率が7割を超えているなか、生活の場の不安を抱え、間借りの学校での学びを余儀なくされている子どもたちがまだたくさんいます。生活や仕事が落ち着かずにおとなが不安定な状況にあることが子どもにも影響を与えています。 福島県では、原発事故の影響による県内や県外での母子避難が長期化して、母子たちの生活の不安だけでなく、ひとり残された父親の孤立や、放射線の影響に関する意見の違いなどによる家族や地域コミュニティの分断、子どもたちの心身両面への影響も引き続き懸念されています。 学校や家庭、地域などで自分の居場所があると感じている子どもは自己肯定感が高いという調査結果がありますが、自分のことを肯定的に捉えている子どもは、被災地域以外の自治体では約2人に1人であるのに対し、被災地域では4人に1人にとどまっています。信頼できるおとなとのつながりや子どもたちが安心して過ごせる居場所づくりが求められています。

2. 5年目の子ども支援活動に求められる視点
(1)「子どもとともに」復興を 子どもは支援の対象でもありますが、復興の主体でもあります。子どもを復興のパートナー=担い手のひとりとして位置づけることが必要です。震災後の避難所運営に、子どもたちが積極的に関わったように、地域に関わっていきたいという子どもたちの思いがあります。そのような子どもたちの思いを引き出すために、子どもたちが主体的な取り組みができるように、子どもたちが被災地の復興の過程に参加する機会をつくり出すことが必要です。子どものいのちを守ることを基本にして、健康、遊び、教育、生活等を総合的に保障することをめざす「子どもの権利条約」は、その指針を与えています。
(2) 子どもたちのレジリエンス(回復力)を生かす 子どもたちは震災などの災害の影響を最も受けやすい一方で、その順応性や適応力、回復力といった子どもたちが生来持っている力を生かしていくこと、子どもたちが持っている力を強めていくような支援が大切です。身近なおとなが寄り添い、安心やつながりを感じられる居場所があること、様々な人と出会い、体験し、自分の可能性を実感することで、子どもたちのレジリエンスはさらに強くなります。元気を取り戻していく子どもの姿は、周りのおとなも元気にし、地域を回復させていく力にもなります。
(3) 子どもたちを分断しない、「子どもにやさしいまち」づくりを 子どもたちへの支援は、「親を亡くした子どもたち」、「家を失った子どもたち」など特定の子どもたちへの支援に偏るべきではありません。子どもたちを分断することなく、すべての子どもたちに支援が届けられるよう、子どもたちを地域で支援していくことが大切です。ユニセフは、先進国、途上国を問わず、世界の国々で、「子どもにやさしいまち」(≒子どもが暮らしやすいまちはすべての人が暮らしやすいまち)づくりを提唱していますが、被災地においてもすべての子どもたちが安全に安心して暮らせる復興のまちづくりが求められています。

3. 「子どもの暮らし」復興に向けた10の提案
「子どもの暮らし」を復興させること、すなわち、子どもが自分らしく暮らせる環境を確保し、すべての子どもが生まれ持った能力を最大限に発揮できる環境を整えた「子どもにやさしいまち」を具体化するためには、以下のことが継続して緊急に求められています。
① 子どもと向き合い、子どもの思いや願いを受けとめる活動を継続しよう安心して思いや声を聴いてもらうことができる人と出会い、語ることによって、子どもたちは震災による厳しい体験を過去のものとして、未来に向けた歩みを始めます。じっくり子どもたちの話を聴く機会をつくり出し、その思いや願いを受けとめる活動を続けることが大切です。
② 子どもを復興のパートナーとして位置付け、発言の場をつくろう子どもたちは地域やまちの“今”と“未来”の担い手です。まちの未来図は、子どもたちと一緒に描かねばなりません。子どもにそうした“役割”を与えることや、子どもが地域やまちの復興に積極的に意見を述べる機会をつくることは、子どもたちの心のケアにもつながります。子どもたちが復興への思いや自分たちが描く復興後のまちの姿などについて主体的に語れる場をつくる必要があります。
③ 安心できる「居場所」-特に中高生のための「居場所」をつくろう子どもが安心して自分らしさを出すことができる、日常的に使える「居場所」が、子どもを孤立から守り、前向きに歩き出す力や強い人間関係を育てます。被災地では特に今、中高生が、学校以外でも勉強することができたり、友人や信頼できるおとなとつながれたりできる「居場所」が必要です。
④ 多様な出会い、経験と挑戦の機会を提供しよう被災体験は地域によって異なります。他の地域の子どもたちと交流すること、復興の過程で様々な立場や職業のおとなたちと出会い、支えられることで、子どもたちは、自らの多様な可能性を発見し将来の姿を描きます。早ければあと数年もたたないうちに“社会人”になる被災地の子どもたちに、「復興」は、こうした出会いと体験を提供する貴重な機会でもあるのです。
⑤ 子どもが安心して相談でき、効果的に救済される仕組みをつくろう「つらい」、「苦しい」と感じたときに、子どもが安心してSOSを発信できる環境をつくり、その発信が、効果的な救済につながる仕組みをつくる必要があります。学校や施設にある既存の仕組みは、残念ながら、今の被災地の現状には十分対応できていません。既存のものから独立した新たな仕組みづくりが求められています。
⑥ 子どもへの寄り添いと支援の連携-総合的な支援を展開しよう家族や先生、友人にも悩みを打ち明けたり相談したりできない、またはそうした機会を持てていない子どもたちがいます。また、支援の側に立つ者が、子どもたちが発信するSOSを理解できず、適切な支援につながらない事例の存在も明らかになってきました。支援者が子どもの気持ちに寄り添い、市民と行政などが共同して子どもを理解し、支援を進めることが求められています。
⑦ 子どもや家族の支援者を支え、育てよう子どもを支えるには、日常的に子どもと接する保護者や周囲のおとなも支えることが必要です。復興の完成形がまだまだ見えてこない被災地では、多くのおとなが疲弊しています。そのようなおとなが十分に休息を取れるような機会をつくっていくことも重要です。子どもには「信頼できるおとな」の存在も不可欠です。保育園や幼稚園の保育士や学校の教職員、学童指導員など、子どもに関係する様々な施設の職員や支援者が、適切な勤務条件の下でそれぞれの仕事ができる環境を整えることや、支援知識や技術を向上するための研修の場などを与えられ、地域の復興を担う存在になれるよう、行政や地域が支援することが必要です。  ⑧ 既存の制度と「復旧・復興」のための制度との調整を図ろう震災から5年を経て、震災後の「復旧・復興」という特別な取り組みから、既存の制度への移行が加速しています。被災地で進める支援の内容を、既存の制度でも運用可能な形、または運用が容易な形にしていくことが重要です。
⑨ 支援を継続させるため、地域の人々と連携しよう被災地の外から来た団体による支援は、永続的なものではありません。外から来た団体の支援で始まった活動が、その団体が撤退した後も「仕組み」として地元に残るよう、被災地に既存の団体の能力の強化や、地域の方々の活動への参加を積極的に促す取り組みをしていく必要があります。
⑩ 情報や経験を、「今後の備え」として共有しよう東日本大震災の支援活動で得た知識や情報、経験は、今後の防災・減災への取り組みに生かせる重要な資源です。子ども支援に関わる者・団体が実践した支援のあり方を広く共有し、災害時の子ども支援のツールとして、実際に支援を受けている子どもたちや震災当時子どもであった世代の意見も聴きながら、今後の備えとして残していくことが求められます。

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