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Q&A 子どもの権利条約に基づいた被災者支援、復興

 

Q1: 地震などの災害の時、また復興の過程で、おとなの暮らしが安定していないのに子どもの権利条約を大切にするのですか?

第1に、子どもは成長発達の過程にあり、社会的にも弱い立場にあることから、とくに手厚い権利保障が必要とされるからです。また、子どもは災害の影響をとりわけ受けやすく、適切な対応をとらなければ、長期にわたってダメージが残る可能性があります。子どもたちには立ち直る力がありますが、それを十分に発揮できるようにするための環境と支援が必要です。

第2に、子どもの意見を聴いて尊重することは、子どものニーズに効果的に応え、子どもの最善の利益を確保するために必要不可欠だからです。それぞれの年齢層の子どもたちがどのような状況に置かれ、何を必要としているかは、子どもたちの意見に耳を傾けなければ本当の意味で知ることはできません。

第3に、子どもたちは現在の社会を担い、そしてこれからの社会を担っていく市民だからです。子どもたちの意見に耳を傾け、子どもたちとともに被災者支援や復興を進めていくことは、取り組みをいっそう効果的なものにするとともに、子どもたちの無力感や罪悪感を軽減・払拭することによって子どもたち自身の回復や成長にもつながります。

以上のことは、阪神・淡路大震災(1995年)後、子どもたちの支援に関わった個人・団体からも指摘されていました。また、スマトラ沖大地震・インド洋津波(2004年)後の援助活動でも、ユニセフやセーブ・ザ・チルドレンをはじめとする国際NGOが子どもの権利の視点から援助活動に取り組み、成果を挙げています(たとえば次の文献を参照)。

Save the Children Sweden, Child Rights Perspective in Response to Natural Disasters in South Asia: A Retrospective Study, 2006
UNICEF, The Participation of Children and Young People in Emergencies: A guide for relief agencies, based on experiences in the Asia tsunami response, 2007

緊急時にも、成長、発達過程にいる子ども:子どもは、紛争時でも災害時でも、常に成長、発達し続けている。どんな緊急時も、子どもの成長は待てず、発達段階の1日、1か月、1年の大切な重みは変えることができない。

「かわいそうな」子どもの支援から、子どもの権利の保護に:子どもの権利条約にもとづき、従来の子どもは、援助の受益者、親に属するといった「守られるだけの存在」であるという位置づけから、子どもを、主体性のある権利の保持者として、被災者支援や復興は実施することにより、その質や果に差が出てくる。

  • 緊急援助時に(また通常も)、子どもの意見を聞いて、尊重することは、子どもの保護には不可欠である。それぞれの年齢や、様々な状況にいる子どもにしか分からない状況、危険要因、必要とされる援助や支援は、子どもの意見を聞き、また尊重しないとくみ取ることは可能ではない。人道援助の基本方針のひとつである「害を与えない」ためにも、子どもの意見にもとづく援助、支援は不可欠である。
  • 子どもたちの貢献を、推奨し、評価することは、被災者支援、復興のなかで、子どもたちの成長にもつながる:世界各地の災害後、特に青年期にある子どもたちによる様々な貢献が評価されている。年齢にそう適切な活動で、学業に支障がないかたちで、子どもたち自身が被災者支援や復興に貢献していくことは、子どもたち自身の回復や成長にもつながる。
  • 今の子どもは10年後のおとな:地域の復興は、未来のおとなたちが、住みたいと思うまちづくりにしなければ、本当の意味での、成果を得ることはできない。子どもの参画にもとづく、子どもにやさしいまちづくりは、将来の繁栄に不可欠。

緊急時にも適応される条約:子どもの権利条約は、災害や緊急時にも適応される国際条約である。

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Q2:子どもの権利条約を大切にすることを、どのように、世界各地の災害時に取り組み、その結果どのような効果を発揮しているのですか?

A:ARC(Action for the Right of the Child)のような資料が、子どもの権利に関わる主要団体(ユニセフ、セーブ・ザ・チルドレン、UNHCR、International Rescue Committee、Terre des Homme、Office of the High Commissioner for Human Rights)の連携で作成され、緊急時またはその後で人道支援や復興にあたる政府関係者やNPOの啓発のために使われています。
・緊急事態を含めて常に適用される国連・子どもの権利条約
・子どもの権利基盤アプローチは緊急事態においても適用可能であり、適用されるべきである
・子どもの権利基盤アプローチは、子どもたちの生活への長期的かつ測定可能な効果を確保することを目的とし、子どもの権利条約、とくにその4つの一般原則を出発点として用いている。
・ ニーズ基盤アプローチとは対照的に、子どもは慈善の客体ではなく、権利を享有・行使する資格がある存在としてとらえられる。
・子どもそのものの保護から子どもの権利の保護への転換。
・子どもの発達とは個人としての人間が受精から成人期へと発育・成熟していく過程のことであり、あらゆる分野の―身体的・認知的・情緒的・社会的・霊的――発達を指している。子どもたちは、待てない。

緊急事態におけるプログラム展開への権利基盤アプローチ:子どもの権利とは、国連・子どもの権利条約に掲げられたことを通じて法的地位を与えられた、一連の普遍的権利および原則のことである。この間、子どもそのものの保護から子どもの権利の保護へとパラダイム転換が行なわれてきた。ニーズ基盤アプローチとは対照的に、権利基盤アプローチでは子どもは権利を享有・行使する資格がある存在としてとらえられ、慈善の客体とは見なされない。国連・子どもの権利条約は実のところ緊急事態も含めて常に適用されるのであり、人道機関は、あらゆる人道状況において子どもの保護に対する権利基盤アプローチを採用するよう求められる。条約の4つの基本原則――(i) 差別の禁止、(ii) 子どもの最善の利益、(iii) 生命・生存・発達への権利、(iv) 意見を聴かれる権利も、緊急事態下のプログラム展開にとって重要な原則である。

基本原則のひとつで示されているように、子どもの発達(個人としての人間が受精から成人期へと発育・成熟していく過程)は、緊急事態におけるプログラム展開で考慮すべきもうひとつの重要な要素である。子どもは緊急事態中も含めて常に発達し続けているのであり、いかなる人道対応においても、発達段階に応じて子どもたちが有するさまざまな、そしてその子ども特有のニーズが考慮されなければならない。

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Q3:子どもの権利条約に基づいた被災者支援や復興のポイントは?

A:いくつかの重要なポイントがあります。

1.まずは、子どもの権利条約で包括的に保障されているすべての権利を保障するように配慮することです。保健、栄養、教育、遊ぶ権利、家族とともにいる権利、最低限の生活を保障される権利、虐待や搾取から守られる権利など、多岐にわたるすべての権利が配慮され、その保障が目指されなくてはなりません。子どもの権利は、このような総合的な取り組みを進めて初めて、効果的に保障されるからです。

2.その際、上記の4つの基本原則が考慮されなければなりません。すべての子どもが差別されたり取り残されたりしないように注意を払いつつ、子どもの最善の利益と成長発達に十分な配慮をし、子ども(たち)の意見を正当に尊重しながら、子どもたちとともに取り組みを進めていくことが求められます。子どもの意見の尊重は、個人に直接関係する事柄(例:社会的養護の選択)だけではなく、どのように地域の復興を進めていくのかといった社会的な側面)に関しても保障することが必要です。国連・子どもの権利委員会も次のように述べています。

10.緊急事態下における実施
125.委員会は、第12条に掲げられた権利は危機状況またはその直後の時期においても停止しないことを強調する。紛争状況、紛争後の解決、および緊急事態後の復興において子どもたちが重要な貢献を行なえることを示す証拠はますます蓄積されつつある。……子ども参加は、子どもたちが自分たちの生活をふたたびコントロールできるようにするうえで役立ち、立ち直りに寄与し、組織的スキルを発展させ、かつアイデンティティの感覚を強化する。しかし、トラウマにつながるまたは有害である可能性が高い状況を目の当たりにすることから子どもたちを保護するための配慮は必要である。
126.したがって委員会は、締約国に対し、子どもたち、とくに思春期の子どもたちが、緊急事態後の復興プロセスおよび紛争後の解決プロセスの双方で積極的役割を果たせるようにする機構を支援するよう奨励する。プログラムの事前評価、立案、実施、モニタリングおよび事後評価において子どもたちの意見が募られるべきである。……他方、その運営が子どもたちの最善の利益および有害な経験から保護される権利と合致することを確保することも必要である

3. 子どものまわりにいるおとなたちへの支援も非常に重要です。子どもの安全と安心は、保護者、家族、そして地域の安全と安心に帰するところがあることを忘れず、子育て家族に優しい被災者支援や復興を実現させていくことは、子どもの保護的環境を強化させるためにも必須です。

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Q4:例はありますか?

A1:遊び場 心のケア
子どもたちは、休息や余暇をとり、年齢に適したレクレーション活動に参加する権利をもっています(第31条)。避難所や被災した子どもたちがいる場所では、いろいろな団体が、通常の遊び場をなくしてしまった子どもたちが、安心して遊びながら、同年代の友達と交流できる場の提供につとめてきました。親・保護者の方々にも、子どもたちを預けられる安全な場所を提供することによって、子育ての負担を、少しでも軽減するお手伝いとなっています。子どもたちが、このように、短時間でも「普通」の日常的な時間を得ることは災害時、またその後に、子どもたちがもっている回復力を引き出すためにも不可欠だとされています。
また、子どもの権利条約では、子どもたちが虐待や搾取をされたり、紛争などの災害の被害に遭った際、身体的および心理的な回復のための支援を、自尊心を育成できるような支援的な環境において受ける権利があるとしています(39条)。被災した子どもたちの心理的な回復のためへの支援も、義務教育をうけている年齢の子どもには、学校が主体となりながら連携して実施していく必要があります。また、上記の、すべての子どもへ無差別にという基本原則に配慮し、普段、見えにくく、忘れてしまわれがちな子どもたち(未就学児、障がいのある子ども、外国人の子どもなど)が心理的に回復していくための支援も忘れてはなりません。ジェンダーへの配慮も必要です。

A2:教育
子どもの権利条約では、すべての子どもに、教育に対する権利が認められています。被災地では、学校の校舎が崩壊したり、ランドセル、制服、文具、学習道具など、教育を受けるために必要なものを失ってしまった子どもたちがいます。学校を始め、様々な団体は、そんな子どもたちに、教育をうけるために必要なものを提供し、給食などのサービスを再開させるように支援しています。また、学校は、子ども逹にとって「普通」の日常的な時間を取り戻すために、最も重要な要因のひとつとなっています。
国連・子どもの権利委員会も、「緊急事態下における子どもの教育への権利」に関する勧告(2008年)をまとめ、教育への権利を十分に保障することの重要性を強調しています。

A3:社会的養護
両親や保護者を亡くしたり、親や保護者に監護されることが適切でないとみなされたりする子どもを公の責任で社会的に養育することを「社会的養護」といいます。東日本大震災により、現在、150人以上の子どもたちが、「孤児」となったと判明しており、その子どもたちの大多数は、今、親族のもとで保護されています。「遺児」になった子どもも相当数います。また、さまざまな事情で親と離れて暮らさなければならない子どもたちも多数存在します。
子どもの権利条約の20条にあるように、そのような環境におかれた子どもたちは、特別の保護や援助を受け、代替的養護を確保する権利があります。子どもたちの社会的養護の選択は、子どもの生存発達段階を考慮し、子どもの最善の利益のために、子どもの意見を尊重しながら実施することが不可欠です。その際、国連で2009年に採択された「子どもの代替的養護に関する国連指針」も踏まえることが求められます。

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