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東日本大震災から 12 年目のメッセージ

2022-03-10

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東日本大震災から12年目のメッセージ
東日本大震災を風化させずに、子どもや若者の声を聴き続けること
2022年3月11日
東日本大震災子ども支援ネットワーク

2022年3月11日、東日本大震災から11年が経過し、12年目に入ります。わたしたちは、東日本大震災をけっして忘れませんし、いろいろなことを教訓にしていかなければならないと考えています。
2021年に続き、東日本大震災の被災地を含め、日本全国で新型コロナウィルス感染拡大の影響を大きく受けた1年間となりました。
2021年2月には、東日本大震災から10年を経ての余震、最大強度6強の地震が福島県や宮城県を襲いました。7月には熱海市での土石流災害、8月には九州北部の集中豪雨、その他にも各地で震度5強の地震や大雨による被害がありました。
頻発する自然災害に加え、2年間にわたる新型コロナウィルスの影響により、子どもたちや子育て家庭など平時から弱い立場にある人たちが負の影響を受けやすいことが再確認されました。コロナ禍での休校や分散登校、オンライン授業など、子どもたちは、友達と会ったり遊んだりする機会を十分に持てない状況が続き、孤独感による鬱やストレスなどメンタルヘルスの課題を抱える子どもが増えています。また、長い「マスク生活」が子どもたちの発達に悪影響を与えることが報告されています
親も収入の機会を奪われ、ひとり親家庭など日々の生活を送ることも苦しいと感じる家庭は年々増加しています。地域の人たちとの交流や遠くに住む親族との行き来も難しい中での子育ての孤立化も深まっています。そのような中で、子どもへの虐待やネグレクトも増加するなど、子どもたちの生活に深刻な影響が出ています。

今なお、約3万8千人の方々が、応急仮設住宅や賃貸住宅、親族などの家に避難されており(2022年2月復興庁)、自県外へ避難されている方々も2万8千人以上いらっしゃいます(うち2万7千人が福島県からの避難者)。震災から11年が経過した今も、日々暮らす場所さえ落ち着かず、生活再建への支援や心のケアを必要とされている方々が多くいらっしゃることを私たちは忘れてはいけません。 親や家族、親しい友人を亡くすなど心に傷を負っていたり、今も落ち着いた生活を送ることができていない子どもや若者たちが誰かに相談したりほっとできる家族や学校以外の第三の居場所、保護者の方々の様々な心配や悩みにも寄り添える場は、友人たちと気軽に会えず、地域社会とつながりにくいコロナ禍であるからこそ、ますます求められています。子どもたちの声を丁寧に聴き、寄り添えるおとなを増やしていくことは、震災からの復興支援の継続としてだけでなく、子どもや若者にとってやさしいまちとして被災した地域が発展していくことにもつながります。また、年々困難さを増す被災地の子どもや子育て家庭を支える支援者たちは、これまでと今後の長く困難な支援の道のりを思い、時に絶望や困難さを感じるようになっています。まさに支援者支援を検討し、開発する時期になっているといえます。

東日本大震災子ども支援ネットワークは、2011年5月の発足以来、行政やNPO/NGOなどの民間団体と連携しながら、国会議員や岩手県、宮城県、福島県の県議会議員、関連省庁や市民団体などとの意見交換会を通じた政策提言活動、大学などでの一般の方々向けのシンポジウムなどを開催してきました。東日本大震災の被災地の子どもたちや若者の声を丁寧に聞き取りながら、子どもや若者同士が語り合い、政策策定に関わる人々や復興支援に関心のある人々に発信する機会をつくってきました。そして、東日本大震災1年目から毎年、計11回のメッセージを発信し、災害子ども支援活動に求められる視点を提示し、「子どもの暮らし復興」に向けた提案をおこなってきました(http://shinsai-kodomoshien.net/?cat=53)。 
これまでの視点や提案を踏まえつつ、東日本大震災から12年目の今、下記の点を強調したいと思います。

1. 「誰ひとり取り残さない、ひとりにしない」支援 震災から11年が経過しても、すべての子どもたちが、必要な支援につながっているわけではありません。成人した子どもたちへのアンケート調査では、「子どもの時に相談できる場所があればよかった」、「もっと積極的に支援を求めればよかった」という声も聞かれます。「心のケア」という看板を掲げた行政などの相談窓口は、必ずしも行きやすい相談場所になるとは限りません。子どもたちが身近に感じられる場所に、安心して悩みを話せる居場所があったり、日常の場で相談できる人がいる必要性がアンケート調査から明らかとなっています。そして、こうした場があったことことで、心の傷が癒され、生き抜く力を得られる子どもたちがたくさんいます。 保護者や学校関係者だけでなく、子どもたちに継続的に寄り添うことができる支援者が育成されるとともに、地域で子どもが安心して過ごせる居場所を確保していくことなどを含め、「誰ひとり取り残さない、ひとりにしない」、そしてその継続が求められています。

2. 若者や親になった子どもたちへの支援 震災から11年が経ち、当時0歳だった子どもが11歳、10歳だった子どもは21歳、17歳だった子どもは28歳です。震災の影響を受けた子どもたちの中には、若者となり、親になっている人たちもいます。震災後、誰もが日々の生活に追われる中で、十分な支援を受けられなかった子どもたちが(特に、震災時に中学生以上だった子どもたちには十分な心のケアの支援が届かなかったことが報告されています)日々の暮らしや子育てに困難を抱えていることは、調査結果や自治体の相談窓口などに寄せられる声などからも明らかになっています。災害からの復興子ども支援事業においては、現在、若者や親となっている子どもたちへの支援も含め、個々の状況に応じ、医療・心理・福祉・教育などの面から必要とされる支援をおこなっていくことが求められています。 自分たちの故郷のために何かをしたい、災害の体験を語り伝えたいと「語り部」として活動や、寄り添い活動などをしている若者もたくさんいる中で、現在の被災地の子どもたちを支える人材としての若者育成にも力を入れていく必要があります。

3. 震災後に生まれた子どもたちの支援 11年という歳月を経て、被災地に居住する子どもたちのうち、半分以上の子どもたちは、震災を直接体験していなかったり、震災に対する鮮明な記憶がない子どもたちです。しかし、震災後に生まれ、被災した地域の保育所に在籍する幼児や保護者を対象にした調査からは、多動で衝動性が高く攻撃的な言動をおこなう幼児が増えていること、不安や抑うつ傾向のレベルが高く支援の必要な保護者が30%を超えることが明らかになっています。震災の心の傷が癒えていない若者が親世代になり、震災の影響が未だ現在進行形で、家族機能の低下が起きていることが示唆されます。それゆえに、世代を超えた支援が求められます。

4. 支援者の発掘や研修、専門的支援による支援の場の補強年々困難さを増す被災地の子どもや子育て家庭を支える支援者たちは、これまでの困難な支援の道のりと、これからの長く多くの課題に遭遇するであろう時期を想像して、絶望や、困難さを感じるようになっている人たちも増えています。また、すでに2年に及ぶコロナ禍で疲弊する支援者も増えています。こうした時期であるからこそ、新しい支援者を育成したり、支援者の専門性と支援の質を高める研修や、相談支援を増やしたりしていかねばなりません。まさに支援者支援が重要になっているといえます。

5. 東日本大震災から学ぶ「災害と子ども・若者白書」の作成東日本大震災の記憶を忘れかけている時期を迎え、また新たな災害が毎年、日本の各所で起きている中で、東日本大震災の教訓を取りまとめ、今後に活かすための「災害と子ども・若者白書」を作成する必要があります。関連するデータの収集を含め、災害が子どもたちにどのような影響を与えるのか、どのような予防や対応が求められるのかなどについて検証した白書が求められています。特に、災害後の短期的な影響だけでなく、中長期的に子どもたちがどのような影響を受けてきたのか、どのような災害支援が有益であり、今後も必要とされるのかも含めて、東日本大震災の子ども支援の教訓をまとめ、今後の災害に備える必要があります。当時の子どもたちが若者や親世代になっていく中で、子どもや若者たち自身が震災について語り継いでいけるよう、子どもたちや若者たちにも白書の作成に参加してもらうことも大切です。

6. 子ども・若者参加の実現私たちは東日本大震災からこれまで多くの子ども・若者たちとの議論を重ねてきました。発災から11年が経過し、多様な形で発災当時のことを語り出す子ども・若者たちを目にしてきました。子ども・若者たちはこう言います。「自分が震災で経験したことが他の誰かのためになるのなら、被災したこと、これまでのことを伝えたい。」被災を経験したすべての子ども・若者たちがこのように語るわけではありません。しかし、伝えたい、語りたいと考えている子ども・若者たちもいます。震災から20年の東北のまちで、人生の主人公として生きる彼らとともに、これまで挙げてきた提言を一緒に考え提案していく機会を作り上げていくことが大切です。


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